大手企業に入社した頃は優秀なはずの若者が、経験を積み重ねた後に、どうして使えないオッサンになってしまうのでしょうか?
記事の内容
若い頃は優秀であったはずの人が、年齢を経て経験を積んだ時に「使えないオッサン」になってしまうのは、確かに不思議な話です。
この記事では、その理由を説明していきたいと思います。
伝統的な日本企業が求めている人材
「企業が求めている人材」というものを考えた時に、求職者側からすると、「英語ができる人」「MBAを持っている人」といったスキルの高い人を想像しがちです。
でも、日本企業の人事側からすれば、それは違います。
会社が求めている人材は、あくまでも「同僚として一緒に働ける人」です。
日本企業は、「少数のエリートが大多数を引っ張っていく」という形式を嫌います。
これは求人票を見てもわかります。
多くの企業に書かれている募集要項は曖昧で、専門性が詳細に書かれていることは、あまりありません。
そのため、会社によっては「専門性を身につけたい」という主張を面談でする人は、それが原因で面接を落とされることすらあります。
日本企業と社員の関係を図にすると、このようになります。
これが、日本企業が言う「従業員は家族」の意味です。
つまり、日本企業は仲間を欲しているということになります。
Web系の企業が求めている人材
一方で、歴史の浅いWeb業界に目を向けると会社の様相が異なります。
Web業界では、その職務に合った人材を求めています。
そのため、求人票を見ても、求められている内容が詳細でクリアになっています。
そうして労働者は、「労働力」の見返りとして「給料」を貰います。
2つの組織のどちらが優れているのか?
この2つの組織は、どちらが優れているのでしょうか?
これは会社側の視点とそこで働く従業員の視点の両方から見ていく必要があります。
一概に、どちらか一方が飛び抜けて優れていると言うわけではありません。
伝統的な日本企業
会社のメリット
従業員に色々な職種を経験させながら、適材適所の人材配置を図ることができます。
例えば、経理部長として働いていた人が、IT部門の部長になるということもあります。
こういった組織では、決まった業務しかやらない職種別採用よりは、柔軟な運営が可能になります。
身近なところで言うと、日本のスタバや居酒屋で働いているバイトと海外で働いているバイトを比べると、「日本のバイトは気がきくな」と思うことがよくあります。
その理由は日本では、職種を決めていないからだと思います。
一方で、諸外国では忙しそうにしている従業員の側で、暇そうにしている従業員を見ることがあります。
これは、「職種が違う仕事は一切やる必要がない」というポリシーがあるためです。
この2つを比べた場合に、気持ちよく過ごせる喫茶店は、日本式だと思います。
会社のデメリット
職務が曖昧なので、従業員の能力の優劣が、なかなかつきません。
従業員の仕事は「ITエンジニア」なのか「経理」なのか明確になっていません。
そのため、従業員の成果についても曖昧になります。
富士通の配置転換の場合だと、「経理」で働いていた人が「ITエンジニア」として働くようです。
それが実際に機能するのかは知りませんが、日本企業らしいなと感じました。
従業員のメリット
従業員は、波風さえ立てなければ、家族のように、いつまでも組織の一因として働くことができます。
従業員のデメリット
従業員は、なかなか特定の専門的なスキルを身につけることができません。
それは、「転職することが難しい」ということを意味しています。
Web系の企業
会社のメリット
職務にあった専門的な人材を集めることができるので、プロジェクトの成果が出やすくなります。
また、成果に対する評価もやり易くなります。
会社のデメリット
会社側のデメリット
- 組織がギスギスしやすくなります。
職務が明確に決まっていて、行間を埋める人がいなくなるからです。
そのため、CEOの力量と組織のデザイン力が問われてきます。 - 人材育成が困難になります。
後輩が育つと自分がリストラされるので、従業員はあまり人を育てようとはしません。 - 余った人材を他部署に送ることが難しくなります。
職務が違うので、他部署に人材を送ろうにも送れません。
従業員のメリット
従業員は専門的なスキルを身につけやすくなります。
そのため、独立や転職などが容易になり、自分のライフスタイルに合った生活がしやすくなります。
従業員のデメリット
従業員は、リストラや左遷に遭いやすくなります。
例えば、所属している部署がなくなれば、社内でいく場所がなくなります。
また、常に職務に見合った仕事をしなければいけないので、一定の努力が必要です。
社員の人数構成は逆三角形でポジションは三角形
次に会社内の人数構成とポジションを見てみましょう。
団塊の世代や、その下は世代の人口が多かったので従業員の人数が多くなりがちです。
ただし、管理職になれる人は限られています。
そのため、下の図にある赤い三角形に入れなかった人は、何歳になっても平社員のままで、その多くは、やる気をなくして「使えないオッサン」になります。
そして、日本の人口ピラミッドは逆三角形なので、下にいくほど従業員数も減りがちです。
そのため、下の世代からすると異様な数の「使えないオッサン」と接することになります。
この図はあくまでもイメージではありますが、日本の逆三角形の人口構成とポジションの三角形のイメージは掴めたと思います。
まとめ
さて、ここまでで、日本企業の雇用体制と従業員ピラミッドについて見てきました。
最後に改めて、「使えないオッサン」が量産されるメカニズムについて説明します。
ここがポイント
- 日本企業は従業員に専門性を求めていない。
専門性が身についていない従業員は、転職をすることができない。
そのため、一つの会社に家族として居座り続ける。
新しい日本の法律だと、社員は70歳まで会社に居座り続けます。 - 組織の構造上、多くの人が役職につけないので、やる気を無くして「使えないオッサン」になる。
昔の日本企業ならば、会社が成長していたので、企業の成長と共に多くの役職が作られていましたが、今は日本企業が負け続けているので、新しい役職も作られない。
この問題を解決するためには、法律的に、「会社が従業員を解雇することを許す」ことが必要ですが、それをすると日本社会が大混乱になります。
結局、「使えないオッサン」を大量に抱えた日本の会社は、ゆっくりとGAFAに喰われて、緩やかな死を迎えていくのでしょう。
人間がなにか組織を作り上げようとするとき、白紙の状態からデザインをするわけではなく、意識しているかはわかりませんが、文化に固有の「文法」に従うと言われています。
そして、その文法とは「家族の構造」です。
そう考えると、日本企業の「使えないオッサン」問題は、家族の問題と同様なのかもしれません。
こちらの記事は、この本を参考にして書きました。
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