私がフィリピンに関わり始めて10年ぐらい経つ。
そして、今になってようやく、フィリピン社会に欠けているのは「信頼」だという事を理解した。
今までは「フィリピンは治安が悪い」という言葉で表現していたけど、より適切な表現は「フィリピンには信頼がない」だと私は確信している。
フィリピン人を少し知っている人だと、フィリピン人はフレンドリーで人懐っこいと思う人もいるかもしれない。
私も長らく、そう思っていた。
でも、それはフィリピン社会の本質ではない。
ハッキリ言おう。
フィリピン社会には信頼がほぼない。
フレンドリーさは、ほぼ嘘っぱちだ。
具体例を出しながら、一つ一つ、説明していこう。
- トイレには紙がない
ほとんどの公式トイレには、トイレットペーパーがない。
その理由は、トイレットペーパーを置いておくと、誰かが盗むからだ。
- スーパーマーケットやショッピングモールに入る時は、荷物チェックをする
スーパーやショッピングモールに入る時は、荷物チェックをする。
その理由は、誰かが銃を持ち込むのを防ぐためだ。
- スーパーマーケットで買い物をする時は、マイバッグを入り口に預けてから、中に入る
スーパーで買い物をする時は、マイバッグを持って買い物をすることはできない。
これは万引きを防ぐためだ。
- 会社で働く従業員は、退社する時に、入口にいる警備員にカバンを見せてから退社しなければならない
これは従業員が、備品を盗むことを防ぐためだ。
- 家政婦として働く人は、家を出る時に、カバンを家主に見せてから、家を出なければならない
これは家政婦が、物を盗むのを防ぐためだ。
- タクシー会社で働くドライバーは、期間で車を借りて、車を返す時にガソリンを満タンにして返さなければならない
フィリピンのタクシー会社で働く人は、日本のように会社に雇用されているわけではない。
ある一定の期間、車をレンタルして、そして車のレンタル代を払う仕組みになっている。
そのため、フィリピンのタクシーは、遠方に行くことを断ることがある。
これは、帰りの乗客を確保できないと、赤字になるからだろう。
なんで、このような仕組みになっているかと言えば、雇用主は従業員の仕事っぷりを信頼していないし、なんなら従業員がガソリンを盗むことすらも疑っているからだ。
だから、このような短期的でシンプルな雇用契約にしているのだろう。
- 一部の雇用主は、最低賃金を払わない
- ブルーワーカーの採用面接においては、応募者は面接官に自分の給料を尋ねてはいけない
日本にも最低賃金があるように、フィリピンにも最低賃金という概念がある。
ところが、一部の雇用主は最低賃金を払わないそうだ。
また、採用面接において、応募者が「私の時給はいくらですか?」と雇用主に尋ねることは失礼な行為にあたるらしい。
これらの事柄からも、多くの雇用主がフィリピン人を全く信頼していないことがわかる。
- 災害のせいで水不足になったものの、水を供給する場所が閉じてしまった。その時の貼り紙に、「私達の安全が最優先なので、しばらく店を閉めます。」と書かれている。
日本で災害が起きても、このような事は起こらない。みんな水を求めて、綺麗に一列に並ぶはずだ。何があったかは知らないけれど、フィリピンの民度はこの程度だということがわかる。
これらの状況を見れば、どれだけ社会に「信頼」が存在していないのかが、わかって貰えるはずだ。
最初は、「これらの対応は、ちょっと大袈裟なんじゃないの?」と私は思った。
人の良い多くの日本人は、きっと私と同じような想いを持つことだろう。
でも、長くフィリピンのローカルと付き合っていると、次第にそうなっている理由がわかるようになる。
私が知っているいくつかの事件を書き出そう。
- マンションの一室で、清掃員が部屋に侵入してお金を盗む
- ラングリッチという英会話学校の金庫から、一千万円がなくなる(一千万円の使途不明金が出る)
- フィリピン人家政婦が、家主の家から物を盗んで失踪する
- 会社に置いてあった携帯の充電器が盗まれる
- 情報システム部門の社員が、私的なPCや部品を購入する
これらの問題が、どう変わっているのか理解してもらえるだろうか?
これらの犯罪の特徴は、犯罪者と被害者の距離が非常に近いのだ。
もちろん、日本でも犯罪がある事は知っている。
でも、日本で起こる軽犯罪の多くは、見知らぬ他人が起こすものだ。
しかしフィリピンの場合は、顔なじみで「お互いに挨拶するような間柄」の人達が軽犯罪を起こす。
これを理解した私は、非常に暗澹たる気持ちになった。
そして、社会に「信頼」が存在していないことの意味を理解することができた。
信頼のない社会では、お互いに顔見知りであっても、簡単に犯罪が起きてしまうのだ。
翻って日本人の場合は、「他人をそんなには信頼していない」と口では言うかもしれない。
それにも関わらず、社会には信頼であふれている。
- トイレは綺麗だし、トイレットペーパーがある
- マイバッグを商品棚の前まで持ち込める
- 入退社は自由
- タクシーの運転手は普通に雇用されているし、ガソリンを盗んだりしない
- 面接官と応募者は対等な関係で、面接で給料を尋ねることができる。
最近の日本社会では、「日本人のレベルも落ちたな」と思わせられる事件も多くなったけれど、それでも社会の土台には信頼が残っている。
できれば、日本社会には今の水準を保って欲しいものだ。
そしてフィリピン社会には、少しでも本当の意味での信頼が根付いて欲しい。
最後に一つ。
シンガポールなどの社会を知っている人であれば、このような社会においては、「あらゆる所に防犯カメラを設置すればいいんじゃない?」と思うかもしれない。
でも、フィリピンでは技術のレベルが低すぎて、防犯カメラはあまり役に立たない。
私の場合は、防犯カメラが設置されている場所で、2回ほど軽犯罪に巻き込まれたけれど、両方とも意味がなかった。
一回目は、カメラに死角が多すぎて、意味がなかった。
二回目は、映像を記録していなかった。
所詮はこんなものである。
ちなみに、映像がハッキリと映っているケースでも、警察が動いてくれないケースもあるらしい。
理由は不明だ。
結局のところ、フィリピンでは国民、システム、行政の全てを信頼することができないし、誰もそれらを信頼していないのだろう。